お盆のファンタジー27
そやった、そやったと、後ろにいる紳士を紹介してくれた。シベリウスさんだ。「3年連続でチャイコフスキーを取り上げて、今やお家芸だなと、思っていたら、フィンランディアがあるんで、誘ったんだ」とブラームスの説明はいつも大げさだ。
「とにかくすごいから、と半ば強制でしたからね」と、シベリウスさんが握手の手を差し伸べながら切り出した。「おかげさまで、あの曲は世界中で演奏されていますが、珍しい合唱付きで楽しめました」と満足げだ。「だろ、だろ」とブラームスがはやしたてる。「フィンランド語だったのには驚いたよ」とはブラームスさんの第一声だ。「合唱抜きになれている耳には別物に聞こえました」と私。「本来は合唱ありなんですわ」とシベリウスさんも打ち解けはじめた様子。「歌った生徒は赤いネクタイでしたが、担当別に色分けでしたか?」とシベリウスさんからやけに細かい質問があった。「いやいや、あれは一年生の色だよ」と、私を遮って訳知り顔のブラームスさんがピタリの説明をしてくれた。
日本では4月が新入生の季節だと、ブラームスさんがシベリウスさんの耳元で教えている。「そうなんです」「あの合唱は入部まもない1年生のデビューです」と私が念押しした。フィンランド語1ヶ月で特訓したのですね」と、察しのいいシベリウスさんだ。
「合唱もなのだが…」とシベリウスさんが、遠くを見るような目で切り出す。「管楽器の和音の作り方がダイナミクスにかかわらず丁寧で感心していたところです」と。「打楽器も、キレより丁寧さを感じました」と続ける。「まあでも、カバレリアルスティカーナの弦がベースだよな」とはしべリウスさんさすがの着眼だ。「難儀な小序曲を、演奏会の先頭にケロリと持ってきてしまう余裕感も素晴らしい」「ソロを受け持つ生徒が指揮者ではなくてダンサーを見ていたよね」「指揮者はダンサーに背を向けているから、踊りと合うかどうかはプレイヤーが頼りだな」などど丁々発止だ。ブラームスさんが「忘れてならんのはコントラバスじゃよ」とドヤ顔で割り込む。カバレリのピチカートでは奏者全員が指揮者ではなくトップを見てた。このオケには目に見えぬアイコンタクトの網が縦横に張り巡らされてのですね」とシベリウスさん。
「楽器始めて1年少々の子もいますよ」とブラームスが話題を変える。「音楽に心を込める点で世界一でしょう」と私が持ちかけても真顔でうなずく二人だった。
「ビューロー、ニキッシュ、フルトヴェングラーとマエストロは、綺羅星のごとくだが、彼らは、誰が振ってもうまいオケをひきいているからな」とはブラームスの持論だ。苦笑いしながらもうなずくシベリウスさん。そもそも15~16の乙女たちメンバーが毎年半数入れ替わる上に、入部して楽器を始める子が大半って、ビューローに教えたらのけぞっていたよ。元々プロ集めてそこそこのオケならだれでも振りよるわい。毎年1から種まいて、一定の収穫を期待される。
ビールを持って娘たちがはいってきた。
« お盆のファンタジー26 | トップページ | お盆のファンタジー28 »
コメント