営業マンのタブー
大学卒業後すぐ今の会社に就職した。新入社員研修1ヶ月の後、はじめて配属されたのが大阪だった。そこで先輩方から営業マンのいろはを学んだ。父と同じくらいの年齢の先輩の言葉が今も耳に残っている。
彼は冗談とも本気ともつかぬ顔でこういった。
「政治・宗教・野球の話はするな」
実感が湧かなかった。大学を出たとはいえ22歳の新人営業マンには無理もない話だ。こちらに悪気はなくても、これらの話をキッカケに気分を害する人は少なくないのだという意味であることは確実だ。キーポイントは野球だった。東京生まれで関東の大学を出た新人は、言葉遣いからしてすでに関西では浮いてしまう。そこへ持ってきて贔屓の球団ネタなどが始まってはまとまる話もまとまらないということなのだ。政治や宗教もこれと同等のニュアンスなのだとぼんやり理解したという訳だ。
会社一般の集まりの中で趣味はと訊かれて「クラシック音楽です」と答えるのにも似たやばさがある。運良く相手も同様の趣味である確率は低い。一瞬で「敷居の高い奴」というレッテルが貼られてしまうことうけ合いだ。ましてこっちはブラームスにムッチリとのめり込んでいる。ライトなクラシック愛好家の間でさえ、浮き上がることこれまた確実である。さらに弾いている楽器が「ヴィオラ」と来るに至っては、ほとんど絶望だ。
周辺の空気が読めるまでは「趣味は音楽」程度でお茶を濁す次第である。
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