6度のティンパニ
ティンパニの調律について興味深い話がある。
「ネーニエ」op82だ。この作品はニ長調だというのに、1対のティンパニは「嬰ハ」と「嬰ヘ」に調律される。これにもまたカラクリがある。中間部で嬰ヘ長調に転ずるのだ。これなら主音と属音だ。つまりネーニエの作品冒頭でブラームスは、ティンパニに対して、中間部の調を見据えた調律を要求しているということになる。調性配置のプランを先に告白しているようなものだ。それでいて中間部に至る前にもティンパニに出番があるところが、絶妙なところだ。しかも2箇所だ。
74小節目コードネームで言うと「A→F♯m」という進行の中でティンパニが「嬰ハ→嬰ヘ」と差し込んで来る。次が82小節から「Hm→C♯」という進行の中で「嬰ヘ→嬰ハ」とたたみこむ。
そして中間部では晴れて主音、属音として「嬰ヘ」「嬰ハ」を活躍させた後、ニ長調の再現部を前に、ブラームスは「嬰ハ」を「ニ」に変更させたと思われる。断言できないのには理由がある。楽譜いくら見ても「嬰ハをニにせよ」と書いていない。書いていないのに157小節目でいきなり「ニ音」がティンパニに現れてしまう。冒頭でデフォルトされた「嬰ハ」の半音上の音だ。だから仕方なく「嬰ハ」を「ニ」に変更したと推定した。
これで「ニ」と「嬰ヘ」になる。ニ長調であれば「ニ」と「イ」というのが自然だが、それだと2個のティンパニを両方変えねばならない。手間を考えたわけでもなかろうが「嬰ハ」だけを半音上げることで「ニ」を調達し、結果として「嬰ヘ」「ニ」という6度関係に持っていったということになる。残念なのは、その再現部の中で「嬰ヘ音」の出番がないことだ。
1対のティンパニが6度に調律されるというのは、なかなかロマンティックな感じがする。
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