ものさしを推し量る
遠い未来。人類が滅び去った後、地球に降り立った宇宙人たちは、地上に残されたおびただしい遺跡を発見するだろう。遺跡調査報告書は膨大な量になる。彼らが各々の遺跡のサイズを計測し分類分析することで、過去地球にて栄えた文明では、子午線の4000万分の1を単位とする物差しが全地球的に普及していたことに気付くのに時間はかかるまい。
一部の学者は、普及の度合いには地域的なバラツキがあったことにも気付くだろう。
そして北米大陸と過去呼ばれていた地域および極東アジアの一部には、不思議な遺跡が大量に発見される。すり鉢状の外周に囲まれた一定の広さの平地にいくつかのプレートが埋め込まれている。中央にはなだらかな傾斜をもつかすかな丘が必ず配置されている。丘の頂上にはいつも約60センチ程のプレートが埋め込まれている。そしてそのプレートからきっちり18.44mの位置には奇妙な五角形のプレートが見つかるのだ。この系統の遺跡は子午線の4000万分の1という基準尺を用いない違う文化圏に属すると結論づけられる。さらに、かすかな丘の上のプレートと五角形のプレートの距離だけが、他の数値に比べて半端な数字になっていることに気付くはずだ。現在この距離は60フィート6インチとされている。60フィートジャストではなく、約15cm長いことに頭を悩ますのだろう。
過去の遺跡のサイズを丹念に調べて統計分析をすると、当時使われていた度量衡を復元することが出来る。日本各地で発見される古墳も、外周の寸法が当時の中国の長さの単位をトレースしていることが推定されている。あれだけの大工事だ、設計図や施行監理が無ければ出来るはずがない。
私が「ブラームスの辞書」で目指したことと似ている。作品とはブラームスの脳内での頭脳活動の結果が楽譜として残っているに過ぎないのだが、その楽譜を丹念に調べれば、ブラームスが用いていた作曲理念の痕跡ぐらいにはたどり着けるはずだという考え方だ。楽譜上への音楽用語の配置が丁寧だったブラームスは、遺跡としては上級である。未盗掘古墳のようなものだ。
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