鉄と鋼
鉄はドイツ語で「Eisen」という。鋼は「Stahl」だ。英語でいうなら「Iron」と「Steel」。気軽に鉄というけれども実用にあたっては大抵いろいろなものが混ぜられた。鋼は炭素が添加された鉄の総称。「Eisen und Stahl」でそれらが便利に言いくるめられている。日本語の「鉄鋼」は、おそらくドイツ語の「Eisen und Stahl」の訳語だろう。
ブラームス歌曲の至宝「永遠の愛について」op43-1に「Eisen」や「Stahl」が出てくる。まずは4節目の3行目。
Fest ist der Stahl und das Eisen gar sehr,Unsere Liebe ist fester noch mehr.
「Stahl」(鋼)は男性名詞なので「der」を伴っている。中性の「Eisen」には「das」が付く。「鋼や鉄は固いけれども、私たちの愛はそい以上よ」となる。けなげな娘の台詞だ。
第5節がこれに続く。
Eisen und Stahl, man schmiedet sie um, Unsere Liebe ,wer wandelt sie um?
Eisen und Stahl,sie konnen zergehn,Unsere Liebe muss ewig bestehn!
いやはや鉄と鋼がまたまた登場。「鉄と鋼は鍛えなおせるけど、私たちの愛はどうして変えられましょう」「鉄と鋼は溶けてしまうかも知れないけれど、私たちの愛は永遠です」となる。オペラ顔負けの大げさな修辞だ。ここでは「鉄と鋼」が自分たちの愛の固さを表すツールとなっていることがよくわかる。不思議なのは登場の順序だ。4節では「鋼」が先だ。5節では「鉄」が先になる上に冠詞が無い。「Eisen und Stahl」で1単語扱いになっている気がする。
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