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2018年4月13日 (金)

大文字と小文字

アルファベットには大文字と小文字がある。その使用方法については欧州諸言語において細かなルールが設定されている。文頭は大文字になるというのがその代表例。ドイツ語においては名詞の語頭は文中でも大文字。

世界最高のブラームス本マッコークルの「ブラームス作品目録」は、ドイツレクイエムを「Ein Deutsches Requiem」と記している。我が家のスコアはオイレンブルク社製で「Ein deutsches Requiem」となっている。大文字か小文字かの違い。通常であれば有無をいわせずマッコークルの見解を採用するのだが、こればかりは少々勝手が違う。

  1. マッコークル 大文字
  2. オイレンブルクスコア 小文字
  3. ブライトコップフ 小文字
  4. ウィーン初演のポスター 小文字
  5. シューマンのスケッチ帳 大文字らしい

その他CDのジャケットは大文字小文字入り乱れているというか全部大文字もあったりしている。ジャケットデザインの都合なども絡んでいそうだから参考程度なのだと思うが、アクセンタスなど小文字も存在するというのが心強い。こうなるとブラームスの自筆譜を確認したくなるのだが、現物を拝めていない。「小文字だ」という情報があるのだが、この目で見ないことには落ち着かない。

ドイツレクイエムの初演とマイスタージンガーの初演が同じ年だったことをもって、ドイツ帝国成立前夜のドイツ民族意識の高まり云々と解する向きは多い。ドイツレクイエムはドイツ民族の誇りを高らかに的な解釈もされているが、小文字「d」先頭の「deutsches」は、そこまで大げさではなくて、単に「ドイツ語の」という意味にとどまるのではないかと感じる。仮にシューマンのスケッチ帳が大文字だったとしても、ブラームスはあえて小文字を選んだのではあるまいか。単に「レクイエムなのにドイツ語なんです」という意味。高まりつつあるドイツ民族主義とはあくまでも一線を画す立場。

このことは実は凄い意味がある。「ドイツ民族意識」や「キリスト教」さえ飛び越えた普遍性の表明である可能性を考えている。初演を任された指揮者ラインターラーとのやりとりの中、「ドイツという言葉をはずして人間のという言葉に差し替えてもいいのです」というブラームスの言葉とつながっているような気がする。「ドイツであることに大した意味なんかありゃせんよ」というメッセージを込めた小文字。

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