カノンのC
断固カノンのツェーと読みたいところである。パッヘルベルのカノンの話である。あの名高いカノンはニ長調であるから、調号としてシャープが「F」と「C」に付与された結果、「Fis」と「Cis」を発することを厳に求められる。
ところが、押しつまった44小節目が3拍を数えるころ第一ヴァイオリンに16分音符の「C」が現れる。「ナチュラル」が与えられるということだ。
連続する4つの16分音符のうちの2個目と4個目だ。それを皮切りに46小節目の1拍目にもあられる。やがてはお決まり通り第一ヴァイオリンを模倣するセカンド、サードにも伝播する。
そして49小節目の末尾には8分音符に出世を遂げる。
音楽的に、いやいや和声学的にこの「C」がなんと位置付けられているかは知らんが、身をよじらんばかりのパワーを感じる。味付けの仕上げに一つまみ加えられるスパイスと申すか、極上のアロマホップを添加するかのようと申すか、ただただ言葉は不完全だ。
遠い昔、大学オケのヴィオラアンサンブルのためにパート譜を写譜したとき、ナチュラルを書き込む指が震えた。
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