調の常用域
バッハは平均律クラヴィーア曲集によって、平均律ならばどんな調でも同じように作曲出来ることを高らかに示したことになっている。作曲にあたっての調性選択の幅が広がったことは間違いのないところなのだろう。しかし、実際に残された作品の数を見る限り「同じように」とは言えない。これは理論上「同じように」作曲出来るということであって、実際の作品が同じ頻度で生み出されることを保証したものではないのだ。フラットやシャープてんこ盛りの作品はけして多くない。
理論と実践は別だとばかりにバッハ自身が常用される調を示している。「平均律クラヴァーア曲集」とならぶ教育的作品の金字塔「インヴェンション」だ。2声、3声とも15の調が選ばれている。下記の通りだ。
- ハ長調 調号無し
- ハ短調 フラット3個
- ニ長調 シャープ2個
- ニ短調 フラット1個
- 変ホ長調 フラット3個
- ホ長調 シャープ4個
- ホ短調 シャープ1個
- ヘ長調 フラット1個
- ヘ短調 フラット4個
- ト長調 シャープ1個
- ト短調 フラット2個
- イ長調 シャープ3個
- イ短調 調号無し
- 変ロ長調 フラット2個
- ロ短調 シャープ2個
調号の数は4個以内。ドミソを弾く際に黒鍵が1個以内という原則に従っていると感じる。変ホ長調だけが例外だ。この15の調がバッハにとっての「常用域」だったと思われる。
ブラームスの作品について言えば大体85%がこの常用域に属している。他の作曲家で調べる元気がないのが残念だ。ブラームスが採用した域外の調のランキングを以下に示す。
- 変イ長調 24曲 フラット4個
- ロ長調 19曲 シャープ5個
- 嬰ヘ短調 15曲 シャープ3個
- 変ホ短調 9曲 フラット6個
以下嬰ハ短調、変ニ長調、変ロ短調が7曲で続く。ブラームスにとっての常用域はバッハよりは少し広めのようだ。
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