BB Mus.ms.Bach P967
おかしなタイトル。ベルリン国立図書館の分類番号なのだが、これこそが「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」全6曲の、作曲者バッハ本人による自筆譜を意味する。きわめて美しい筆跡の清書譜として名高く、「1720年」という書き込みがあることで、第一級の研究資料となっている。
バッハの七男でビュッケブルクのバッハとして知られるヨハン・クリストフ・フリードリヒ(母:アンナ・マグダレーナ)の娘、クリスティアーネ・ルイーザが所有していた。それが、高名なバッハ研究家であったウィルヘルム・ルストの所有するところとなり、彼の未亡人を経てプロイセン国立博物館が所蔵するに至る。1917年のことだ。この楽譜が本人の自筆譜と判明したのはおそらくルストの死後であり、これを底本とする楽譜の出版は1908年を待たねばならない。高名な研究家であったルストは、これを所有していながら、本人による自筆譜と認識していなかったと思われる。ブラームスのお友達で、浩瀚な「バッハ伝」を表したフィリップ・シュピッタもこの自筆譜の存在を知らなかった。1879年刊行の「旧バッハ全集」でさえ参照は不可能だった。
ルストと言えば、ブラームスと妙な因縁がある。ブラームスが1879年にライプチヒのトマス教会からカントルへの就任を打診されている。もちろんお断りしたのだが、断られたトマス教会が次に就任を要請したのがルストだった。ルストはこれを受諾している。もしもである。ブラームスが要請を断らず、トマスカントルに就任していたら、その在任期間中に、この自筆譜を入手できたかもしれない。周知の通り、ブラームスは古楽譜の収集家だったから、見逃しはあり得ない。一歩間違えばブラームスの所蔵だったかもしれない。
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