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旧バッハ全集出版の段階で、一連の無伴奏ヴァイオリン作品6曲は、バッハ本人の自筆譜が参照されていなかった。2人目の妻アンナ・マグダレーナの手による精巧な筆写譜が自筆譜だと思われていた関係もあっての仕方のない現象だ。
1906年ヨアヒム主導で自筆譜が再発見されるまで、ずっと日の目を見ることがなかった。旧バッハ全集刊行後に同自筆譜の所有者となったウィルヘルム・ルストは1892年に没するまで少なくとも公には沈黙していた思われる。1892年に没した後、未亡人オルガが同楽譜の処遇を関係者に相談するようになって、その存在が本格的に取り沙汰されるようになった。シュレーダー先生の著書、「バッハ 無伴奏ヴァイオリン作品を弾く」の57ページ脚注に驚くべき記述がある。
バッハの無伴奏ヴァイオリン作品の自筆譜の存在に関して、最も早い言及は1890年のブラームスシュピッタの往復書簡の中に現れると断言している。
シュレーダー先生の原著は2007年の出版だ。20世紀のバッハ研究の成果を反映しきった最先端の書物だから、そこで最初の言及だとお墨付きをもらうということは大変なことだ。誰から聞いたのだろう。死没直前のルスト本人から相談されていた可能性さえ感じる。
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