キールより愛を込めて
みすず書房刊行の原田光子訳「ヨハネスブラームス・クララシューマン友情の書簡」という本の226ページに、左手版シャコンヌをクララに贈った際に添えられた手紙が訳出されている。一昨日その全文を紹介した。本日は同書の227ページに記載されたそれに対するクララからの返信を抜粋して紹介する。
7月6日キール
最愛のヨハネス。ここで私を待っていたのは素晴らしい驚きでございました。まあ何と言う不思議なことでしょう!ちょうど私は着いてすぐ机の引き出しをあけようとして、右手の筋を痛めましたのでシャコンヌは本当によい隠れ家でございました。あなただけにしか書けない作品、そして私がことに非凡だと思うのは、ヴァイオリンの効果をそのまま出しておいでのことです。どうしてお考えになられたのでしょうね。それが本当に不思議に思われます。私の指が終わりまで支えきれないのは事実です。同じ音が繰り返し奏せられるところにくると、つっかえてしまって、右手が助けに出たくなります。それ以外は別に克服しがたい難解さはありません。そして大きな楽しみです。
クララのおメガネにかなったことは間違いない。何よりも褒められているのはその着想だろう。クララをもってしても右手で手伝いたくなるとはほほえましい限りだ。
同じ手紙の後半で、イタリアの貴族に嫁いだ三女ユーリエの子どもが急死した事が報告されているが、まず作品への感謝と評価を忘れない健気なクララだ。
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