クララの評判
新音楽時報(Die Neue Zeitschrift fur Musik)は1834年4月3日に、ライプチヒでロベルト・シューマンにより創刊された音楽誌だ。現在も刊行が続いていて、ドイツでもっとも権威のある音楽誌と位置づけられている。シューマンは1843年まで同社にとどまって数々の論文を発表している。後にシューマンがブラームスの出現を喜んだ記事を寄せたことでも知られている。
ブラームス関連の資料を捜すつもりで記事を当たっていて、思わぬお宝情報に出会った。1838年4月27付けの「新音楽時報」の記事だ。
当代屈指のピアニスト4人についての比較論が掲載されていた。4人とは以下の通りだ。
- タールベルク 洗練された感性。最高に楽しませてくれてしばしばうっとり。イタリア風おべっか。
- クララ 気取らない心酔、夢見心地。ドイツ感傷主義。
- リスト 激しい熱弁、悪魔的。フランスロマン派。
- ヘンゼルト 真のドイツ的叙情、素晴らしい感激に誘う。ドイツ感傷主義。
さらにピアノ演奏を様々な要素に分解して4人の個性を分析する。
- 演奏の純粋さ タールベルク、クララ、ヘンゼルト、リストの順
- 即興性 リスト、クララ
- 感情と暖かさ リスト、ヘンゼルト、クララ、タールベルクの順
- 芸術家的な激しい性格 リスト、クララ
- 高くそびえる精神 リスト
- 洗練された振る舞いと礼儀正しさ タールベルク
- 気取った振る舞い ヘンゼルト
- 比類無き独創性 リスト
- 自己反省 クララ
- 初見演奏 リスト、タールベルク、クララ
- 多芸 クララ、リスト、タールベルク、ヘンゼルトの順
- 音楽的学識の豊かさ タールベルク、ヘンゼルト、クララ、リストの順
- 音楽的な判断力 リスト、タールベルク
- 打鍵の美しさ タールベルク、ヘンゼルト、クララ、リストの順
- 大胆さ リスト、クララ
- 利己主義 リスト、ヘンゼルト
- 他人の功績の承認 タールベルク、クララ
- 練習 しないリスト、自由なタールベルクとクララ、屈従的ヘンゼルト
- 模範としてのお勧め タールベルク、クララ
- 演奏の姿勢 タールベルク、クララ、ヘンゼルト
- 暗譜の正確さ リスト、タールベルク、クララ
- 演奏中の表情(しかめっ面をしない) タールベルク、クララ
面白すぎて言葉を失う。おそらくブラームスのピアノの腕前はこの4人の前では霞むのだろう。
この記事の執筆者がロベルト・シューマンである可能性は低くない。
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