メトロノーム値をめぐって
亡き夫ロベルト・シューマンの作品全集を出版することはクララの長年の宿題になった。おそらく出版社からメトロノームの速度表示を付与するよう要請されたのだろう。クララは気が進まぬ様子でブラームスにどうしたものかと意見を求めている。ブラームスは1861年4月25日付けの手紙でそれに答えている。
ブラームスはまず、「貴女(クララ)は本当にそれをやりたいのですか」と驚いて見せ、すかさず、自分としては不可能だし不必要だと断ずる。以下その理由だ。
- 測定の不確実さ
- 元々シューマンのメトロノーム値が信用できない
- 大規模作品をその測定のために演奏させることは物理的経済的に困難
- 大規模作品をピアノ演奏して代用すると概して不必要に速くなり測定は困難
- 測定の難易度の割に、ほとんど利用されない
もしやるとするなら、シューマン作品をご自分(クララ)が演奏するたびに、これと思ったテンポを書き留めておき、時間が経過してそれら書き込みが貯まってくれば、その中から最良の数値を選ぶことも出来ると言っている。いずれにしろ締め切りに迫られながらでは無理というニュアンスだ。
そして手紙の末尾でもう一度そのままにしておくことを薦めている。いやはや何とも含蓄がある。
- 当時28歳のブラームスが14歳も年上のクララに、毅然として自説を主張している。
- メトロノーム値を楽譜に掲載することへ不審をキッパリと宣言している。
- シューマン作品への深い理解に立脚している。
だからこそクララが相談するのだ。
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