10000マルクの寄付
クララは70歳を過ぎてもその演奏を通じて家族の生活を支えていた。万が一にも「ロベルト・シューマンの家族が路頭に迷った」という後ろ指を世間様から指されないために、彼女のプライドがそう駆り立てていたと見るべきだ。あるいは父の強硬な反対を押し切っての結婚だったことも、彼女のモチベーション維持に役立っていたかもしれない。
もちろんブラームスはクララのそうした性格を知り抜いていた。
当代きってのピアニストクララといえども年齢には勝てない。リュウマチの持病もある。それらがクララの演奏活動に差し障って来るということはつまり、家計の逼迫を意味したのだ。重々承知のブラームスは機会をうかがっていたと思う。面と向かって援助を相談すればピシャリと辞退されるに決まっているのだ。
ふとしたはずみでクララは長年の親友であるブラームスに愚痴をこぼす。次男フェルデナンド一家の養育までクララの肩にかかっていたのだ。この相談はある意味ブラームスの思うつぼだ。ブラームスはクララ本人にではなくシューマン基金への寄付という形で10000マルクを寄付する。現在のお金にして500万円だ。15000マルク(750万円)としている本もある。税務署が興味を持ちはしないか心配だが、とりあえず太っ腹である。クララは孫たちに本当に必要になるまで保管しますといってこれを受ける。
実はこの寄付はブラームスにとっては失敗だ。なぜなら私ごときの愛好家にばれてしまっているからだ。本当は秘密にしたかったに違いない。
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