2つのピアノ協奏曲
ブラームスはピアノ協奏曲を2つ残した。
- 第1番 ニ短調op15 (D-F-A) 1858年
- 第2番 変ロ長調op83 (B-D-F) 1881年
見ての通りDmollとBdurである。ブラームスの残した作品を俯瞰すると、この2つの調関係にはある種ただならぬ雰囲気があることに気付く。すでに以下の記事で述べて来た通りである。
「Dein Brahms状態」
http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2005/11/dein_brahms_97a7.html
「AとB」
http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2006/05/post_8db4.html
上記作品後ろのカッコにはそれぞれの調の主和音の構成を記している。すぐに気付くのはこの両者の違いはAとBの違いでしかないということだ。このうちのAはクララの象徴であり、Bはブラームスの象徴ではないかという想定や、この2つの音を中心としたニ短調と変ロ長調のせめぎあいが、ブラームスのクララへの思いの象徴であるとの仮説が先の2つの記事で述べられている。
2つしかないピアノ協奏曲がこれらの調を仲良く分け合っているのは何やら象徴的である。
第1番。大抵の聴き手はこの作品がニ短調であることを認識してから鑑賞を始める。するとどうだ。冒頭ブラームスとしては異例の「ff」で曲が立ち上がる。はらわたを突き上げるような低いDを奏するのはコントラバスとティンパニ、そしてホルンの1、2番だ。次が肝心だ。ホルンの3、4番は同じく「ff」で「F」を吹く。ここで大抵の聴き手は「よしよしニ短調だな」と確信を深める。ところが、第2小節目で第一ヴァイオリンとチェロが持ち込む主題はいきなり「B-F-D」と下降して始まる。「AのかわりにB」が差し込まれているのだ。ニ短調という聴き手の思い込みをあざ笑うかのような「変ロ長調」である。
この手のせめぎ合いは第2番変ロ長調協奏曲にも現われる。ニ短調のスケルツォ・第2楽章だ。冒頭独奏ピアノが「ff」で主題を駆け上る。3小節にニ短調の和音に決然とたどり着くと同時にヴィオラ以下の低い弦楽器に対旋律が出現する。いわく「D-C-B」である。この最後の音5小節目冒頭のBは3小節目からピアノが放っている「A」と4分音符2個の間激しく衝突するのだ。「AとB」が強打される状態である。他の音はDとFしかないから、まさにニ短調と変ロ長調が同時に鳴っていることになる。
さらにこれらの協奏曲の各の楽章の調性を調べる。1番はニ長調の緩徐楽章がニ短調の1楽章と3楽章に挟まれている。2番は第2楽章にニ短調が採用されている他みな、変ロ長調なのだ。つまり、2つのピアノ協奏曲が擁する全7つの楽章の主音は、変ロ音かニ音しか現れないということになる。この2つの協奏曲にはまだ不思議な共通点がある。緩徐楽章が4分の6拍子になるのはこの2曲しかないのだ。不思議といえば不思議である。
DとFに加えて「A」が必要なニ短調がクララ、そして「B」を欲する変ロ長調がブラームスをそれぞれ表しているような気がする。だから第1番から23年を隔てて生み出された第2番は「変ロ長調」でしかありえなかった。
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