令和百人一首08
【015】志貴皇子
石走る垂水の上の早蕨の萌え出ずる春になりにけるかも
【016】亀山院
焼き捨てし煙の末の立ち返り春萌え出ずる野辺の早蕨
【コメント】高校時代の万葉集の授業で習って以来、不動の位置づけにある志貴皇子の絶詠だ。「石走る」は「いわばしる」と読む。「~の~の~の」と畳みかけ、4句目の字余りで一瞬堰き止められるが、結句で一気だ。平安京の貴族たちにとって桓武天皇は至尊の位置づけにある。志貴皇子はその祖父だ。壬申の乱以来天武天皇の系統にあった皇位が、天智側にもどったのが志貴皇子の子、光仁天皇だから皇統が天智系に復するポイントにいる。勅撰和歌集への収載が無いせいか、小倉百人一首では漏れているのが残念なのでせめて私が。
鎌倉時代後半、後鳥羽院の曾孫にあたる亀山院は、およそ600年隔てて本歌取りを試みる。「焼き捨てし」という典雅ならざる初句。読み手をぎょっとさせておいて、二句目から一句ごとに沸きたつ春の期待感。元歌では肝になる字余りを一顧だにせぬ爽快感。魔法のゆりかご「野辺」の「令和百人一首」初出。そして結句末尾「早蕨」に至って、志貴皇子の本歌取りであることが露呈するという小出し感に泣きたいくらいだ。お気づきの通り「早蕨歌合せ」である。
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