令和百人一首04
【007】石川郎女
吾を待つと君が濡れけむ足引きの山の雫にならましものを
【008】紫式部
ほととぎす声待つほどは片岡の杜の雫に立ちや濡れまし
【コメント】石川郎女は「いしかわのいらつめ」と読む。【006】大津皇子の恋人だ。「令和百人一首」では、「奇数&偶数」をペアに歌合せを試みるが、「偶数&奇数」のいくつかにも関連を持たせている。これを独自に「裏合わせ」と命名した。ページの裏表になるからだ。大津皇子と石川郎女は「裏合わせ」初出である。なぜなら石川郎女の本作は、恋人大津からの「足引きの山の雫に妹待つと我立ち濡れぬ山の雫に」という問いかけに対する返歌である。大津は苦渋の選択の末、辞世を選んだために無念の落選になった。大津の贈歌もかなりな好サーブなのだが、「私を待つと言ってあなたが濡れたとおっしゃる山の雫になりとうございます」と待たせた相手に甘える手厳しくも愛らしいリターンエースだ。「足引き」は「令和百人一首」の枕詞初出。加えて仮想現実の「まし」初出でもある。ほぼこの歌一首で現代にまで名を遺すとは。
源氏物語の作者として世界的に君臨する紫式部。「源氏読まぬ歌詠みは遺恨のことなり」と言われる古典中の古典。彼女はおよそ330年の時を隔てて石川郎女を本歌取りする。待つのは恋人ではなくてほととぎすだし、「山の雫」が「杜の雫」に転じられてはいるものの仮想現実の「まし」が表現の肝であることを紫式部も見抜いている。だから「まし」歌合せである。本作が新古今和歌集に入集していること心から嬉しく思う。
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