令和百人一首11
【021】紀貫之
袖ひじて結びし水の氷れるを春立つ今日の風や解くらむ
【022】源俊頼
さまざまに心ぞ留まる宮城野の花のいろいろ虫のこえごえ
【コメント】紀貫之は古今和歌集の撰者にして勅撰入集475首の最多記録保持者だ。「古今」「後撰」「拾遺」のいわゆる三代集すべてで「最多入集歌人」となっている。詠んでいるのは立春だが遠く夏の日に「袖を濡らしてすくった水」を思い起こす。冬にはその水が凍っていたのだが、春になった今日の風が解かしてくれているのだろうと、現在推量をかます。「水」をキーに一首の中に3つも季節を凝縮して見せる神業だ。袖を濡らすのが涙でないのもすがすがしい。和歌界のモーツアルトか。俊頼とて勅撰入集207首を数える大歌人だ。おまけに第5勅撰和歌集「金葉和歌集」の撰者である。本作は明示はないものの季節は秋。宮城野といえば萩の名所である。「さまざま」「いろいろ」「こえごえ」という言葉のさざなみを意図的に繰り返すという技巧ながら、嫌みがない。和歌界のハイドンとくれば「平安大歌人歌合せ」だ。
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