令和百人一首07
【013】大伴家持
我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも
【014】藤原実定
秋来ぬと驚かれける窓近くいささ群竹風そよぐ夜は
【コメント】見ての通り「いささ群竹歌合せ」である。「いささむらたけ」と読む。大伴家持は旅人の子で【012】大伴旅人と裏合わせ。万葉集の編者と目される大歌人。一首選ぶのは難儀のようで、実は私にとってはこの歌しかない。「いささ群竹」「かそけき」の繊細な感覚は新古今の先取りとも感じる。花でも紅葉でもない竹への着眼なのだが、その肝心の竹は音によって認知されている。とりわけ「かそけき」は万葉集中家持だけに用例が限られる「家持語」だ。思うに和歌界の最弱音だろう。心からの尊敬をこめて「和歌のバッハ」と認定したい。
そして藤原実定は、小倉百人一首では後徳大寺左大臣と呼ばれている撰者定家のいとこだ。大伴家持に華麗な本歌取りをかましていると採用したが、藤原家隆の小倉収載歌「風そよぐ奈良の小川の夕暮は禊ぞ夏の験なりける」をも視野に入れているかと。その気で眺めると藤原敏行の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれける」も、うかがっているかもしれない。壮麗な三重本歌取りの様相を呈する。
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