令和百人一首40
【079】蒲生氏郷
限りあれば吹かねど花は散るものを心短き春の山風
【080】細川幽斎
君がため花の錦を敷島や大和島根も靡く霞に
【コメント】蒲生氏郷は信長に才能を見出だされたが、本能寺の変以降、秀吉に仕えた。会津42万石の領主にまで出世を遂げた一方で茶人としても名高く、利休七哲の筆頭格であった。本作は辞世。花を自分に見立てているのは明らかだが、山風は秀吉を暗示するとも言われている。三連符のようにたたずむ初句の字余りが心地よい。
細川幽斎は12代将軍足利義晴の子。細川忠興の父であり熊本細川氏始祖。秀吉に仕えた武勇知略もさることながら、茶の湯の世界でも利休七哲第二位であるし、和歌においては古今伝授の継承者でもある教養人。関ヶ原の戦いの折、田辺城で西軍に包囲されたが、古今伝授の断絶を恐れた後陽成天皇が助命の勅を発したというほどの人物。本作は秀吉の吉野の花見に同行した際の詠。「君がため」とは秀吉を指す。満開の桜絶賛なのだが、それは天下統一を成し遂げた秀吉に靡くかのようだと寿ぐ。「錦を敷く」が「敷島」に掛けられ、その「敷島」は「大和」を謳いだす枕詞になっているという緻密な構成だ。「大和島根」とは日本列島のことだから、「大和島根も靡く霞に」で天下統一を暗示するという仕掛け。あろうことか遠く鎌倉時代の九条良経「敷島や大和島根も神代より君がためとや固め置きけむ」の本歌取りとすることで、格調の付与にも成功している。さらにだ。源実朝の「我が国の大和島根の神たちを今日の禊に手向けつるかな」まで視野にあるなら降参するしかない。
「秀吉をキーにした利休七哲歌合せ」という手の込んだ会心のしかけだ。
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