令和百人一首37
【073】北条氏照
吹きと吹く風な恨みそ春の花残る紅葉の秋あらばこそ
【074】武田信勝
まだき散る花と惜しむな遅くともついに嵐の春の夕暮れ
【コメント】北条氏照は072北条氏康の次男だから「親子裏合わせ」になっている。八王子城主だったが秀吉の小田原征伐にあい降伏し自刃。本作は辞世の句。父に似てかひとかどの歌人とお見受けいたす。ただならぬ空気が横溢する「吹きと吹く」という初句。吹く風を恨むなと花を説得するその材料は秋の紅葉だという着眼。辞世だから自らは秋まで時間が無いというのに。さらにだ。本作は土御門院御製「春の花秋の紅葉の情けだに憂き世にとまる色ぞ稀なる」を踏まえているかと。「春の花」「秋の紅葉」を併記する趣向を借りることで奥行きの付与に成功している。まさか後鳥羽院を本歌取りした父にあやかって、その子土御門院を本歌取りしたなどという手の込んだオチかとも。この親子只者ではあるまい。
そして武田信勝は勝頼の長男。ということは信玄の孫。父も祖父もひとかどの歌人だった。織田軍に包囲された天目山にて父とともに自刃。御年15歳。本作は未来ある息子の死を惜しんだ父の言葉への返歌であり辞世でもある。「まだき散る」に「早すぎる」という無念が充満する。「遅くとも」に込められた「遅かれ早かれ」という達観が切ない。「春はあけぼの」という日本の常識に反して、秋の専売特許だったはずの「夕暮れ」の体言止めで念を押すという着想が痛切だ。彼の母は織田信長の養女だから信玄の孫でありかつ、信長の孫という強烈な血統。
戦国武将二人の「春の辞世歌合わせ」だ。
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