令和百人一首46
【091】井伊直弼
近江の海磯打つ波の幾たびか御世に心を砕きぬるかも
【092】宗良親王
諏訪の海や氷の上は霞めどもなほ打ち出でぬ春の白波
【コメント】井伊直弼は彦根藩15代藩主。幕末争乱期に大老に就任。日本を開国に導く一方、安政の大獄など攘夷派を弾圧。桜田門外の変で水戸藩士に暗殺された。だから090水戸斉昭とは桜田門外裏合わせという物騒な設定。本作はお抱えの絵師狩野永岳に描かせた自身の肖像画に添えられた歌。暗殺の二か月前の話であるから辞世とも映る。「近江の海」とはもちろん琵琶湖だ。「世のために心を砕いてきた」という自負を、琵琶湖の波から語り起こす着想を味わうべき堂々たる詠みっぷりだ。宗良親王は「むねながしんのう」と読む。後醍醐天皇の皇子だから時代が違うというお叱りも覚悟の設定。南朝専用和歌集で、勅撰和歌集に準ずる扱いを受ける「新葉和歌集」の撰者だ。二十歳で天台座主に就任。建武の親政瓦解で環俗し、南朝の貴重な人材として各地を転戦。信濃と遠江を主戦場としたが、遠江井伊城にて薨去。井伊谷に埋葬された。一帯は井伊家ゆかりの地だ。それこそが井伊直弼とペアにする根拠。本作は諏訪湖名物、御神渡りの描写で井伊直弼のお歌とは「琵琶湖vs諏訪湖」の構図となる。「湖歌合せ」である。
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