歌枕
「脳内補正語」第18弾。歌枕とは「和歌に現れる地名」のこととひとまず定義する。しかし、本来は和歌の世界で承認されたものだけを指していた。特定のイメージを添える働きが期待されていた。たとえば「吉野」といえば「桜」で、現実の吉野に梅がどれほど美しく咲いていたとしても「吉野の梅」を詠むことはない。歴史、故事、語呂などさまざまな要因によって長い間に規定されてきたものだ。
さて「令和百人一首」に登場する歌枕を五十音順に一覧化しておく。収載歌番号に加え現在のおおよその位置も付記する。
- 相の浦 87 長崎県
- 明石 31 兵庫県
- 生きの松原 87 福岡県
- 石清水 65 京都府
- 磐代 9 和歌山県
- 岩出 51 京都とも大阪とも
- 磐余 6 奈良県
- 内海 76 愛知県
- 蝦夷 88 北海道
- 近江 91 滋賀県
- 隠岐 45、46 島根県
- 片岡 8 京都府
- 清見潟 69 静岡県
- 須磨 17 兵庫県
- 諏訪 92 長野県
- 高間の山 2 大阪府
- 九十九島 87 長崎県
- 勿来 29 福島県
- 奈良 12 奈良県
- 双ケ丘 60 京都府
- 野間 76 愛知県
- 播州 34 兵庫県
- 水無瀬川 48 京都府
- 宮城野 22 宮城県
- 向ヶ岡 90 東京都
- 陸奥 88 東北地方
- 大和 80 奈良県または日本
- 和歌の浦 66 和歌山県
ほれぼれだ。地名が出るとテンションが上がる。小倉さんちとの重複は「須磨」「奈良」「陸奥」くらいか。密度としては西高東低だ。宮廷文化の投影であることを考えると健全である。源実朝には、さすがに「伊豆」「箱根」「鎌倉」「足柄」「那須」などが出て来るけれど、普通は大抵西寄りになる。もっと注意すべきは、歌枕が詠み込まれるに際して、歌人本人に現地訪問の経験があるかどうかは問われないということだ。源実朝は箱根以西に出かけていないが、西日本の歌枕が頻繁に出て来る。写実ではないと言われればその通りではあるけれど、私の地名好きは微動だにしない。
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