さても家持
大伴家持は、万葉集編纂者とも目される奈良時代の大歌人だ。もともと有力貴族なのだが、藤原氏の台頭で理不尽な目にも遭っている。結論から言うと大好きだ。以下の通り好きな歌が多い。
- 我が屋戸のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも
- 春の野に霞棚引きうら悲しこの夕影にうぐひす鳴くも
- うらうらと照れる春日にひばりあがり心悲しも一人し思へば
- ものふの八十乙女らが汲み紛ふ寺井のうえの堅香子の花
- 春の苑くれない匂ふ桃の花下照る道に出で立つをとめ
- 新しき年のはじめの初春の今日降る雪のいやしけよごと
- ふりさけて若月見れば一目見し人の眉引き思ほゆるかも
- 夏山の木末の繁にほととぎす鳴き響むなる声の遥けき
- 初春の初子の今日の玉箒手に取るからに揺らぐ玉の緒
特に上記冒頭の三首。万葉集19巻の4290から4292は、彼の集大成とも思える。8番の「響む」は「とよむ」と読む。根拠不明ながら新古今の先取りとも感じるのはなぜだろう。体言止めが散見されるのもこの時代としてはレアだ。
一度は人麻呂に奉りかけた「和歌界のバッハ」の称号を、熟考の末、大伴家持にささげた次第。万葉の統合の功績は、バロックの完成者に比肩し得る。
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