手の力
拾葉百首の05足利尊氏のお歌。
軒の梅は手枕近く匂ふなり窓の隙漏る夜半の嵐に
あるいは小倉さんちの周防内侍
春の夜の夢ばかりなる手枕に甲斐なく立たむ名こそ惜しけれ
手枕だ。このうちの「手」に注目している。「手~」という言葉も実は「脳内補正語」なのだが「令和百人一首」本体には現れなかった。なんとしてもこれを話題にしたくて、補足版の「拾葉百首」を急ぎ公開したというのが本音だ。
名詞に限ってもたくさんある。
手合い、手垢、手当て、手合わせ、手入れ、手植え、手遅れ、手弱女、手鏡、手書き、手加減、手数、手形、手刀、手柄、手切れ、手首、手暗がり、手際、手ぐすね、手癖、手管、手心、手駒、手籠め、手先、手さばき、手触り、手塩、手下、手品、手順、手隙、手すさび、手すり、手狭、手助け、手立て、手練れ、手づかみ、手付き、手付け、手伝い、手綱、手詰まり、手取り、手直し、手並み、手習い、手縫い、手ぬかり、手ぬぐい、手の内、手延べ、手の者、手始め、手筈、手放し、手番、手引き、手拭き、手札、手ぶら、手弁当、手ほどき、手本、手間、手前、手招き、手土産、手向け、手持ち、手元、手盛り、手分けetc
名詞以外でも以下の通り。
手荒い、手控える、手厳しい、手強い、手慣れた、手緩い、手走る、手早く、手短
手が先頭に来ないケースもある。
大手、勝手、搦手、後手、衣手、上手、先手、苦手、下手、不手際、担い手、得手、元手、番手
「しゅ」と発音するケース
手腕、手芸、手動、手術、手段、手工業
何より大和言葉の雰囲気が充満する。どこか優雅な感じ。これが「脳内補正語」になるのはそのせいだ。もう「hand」の意味は相当薄れてはいまいか。「手が1音の単語だからだ」というのは通じない。元々ひらがな一文字の名詞には身体に関する語彙が多くて「手」以外にも「胃」「尾」「毛」「背」「血」「歯」「目」などがあり、実は「気」や「名」も怪しい。なのにこうした機能は「手」が群を抜く。直立歩行を獲得した人類が、歩行に使わなくなった前足を「手」として発展させたからとまで申すには気も引けるが、「手は口ほどにものを言い」と言いたいくらいだ。諸外国の言語ではどうなっているのだろう。もし人類の直立歩行に原因があるならどんな言語でも同様の傾向があるはずだ。英語に「hand」を含む単語や慣用句がどれほどあるか興味深いが、受験英語の範囲ではあまり記憶がない。
手が語尾に来るケースでは英語でいう「~er」(~する者)の意味があるかもしれない。将棋でいう「turn」(手番)の意味も含んでいるように見える。「自ら」「反自動」などさまざま分類を試みている。
もはや微妙な意味を付加する「微調整語」あるいは「五七五七七の韻律合わせ語」として発展したのではないかとさえ思えてくる。
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