リアライゼーション
ブラームスがバッハのカンタータ演奏の実績を積み上げたことは既に書いた。その中でBWV4「キリストは死の縄目につながれたり」が含まれている。「バッハ伝」の著者シュピッタは、同曲の演奏に際し、すでに演奏経験のあるブラームスからオルガンのパート譜の提供を受けた。1874年10月の書簡にそのことが書いてある。
通奏低音を受け持つオルガンのパート譜だ。バロック時代のしきたりに従えば、通奏低音には単音が記され、そこに付与された数字を見ながら、演奏者がアドリブで和音をさしはさむのだが、19世紀のロマン派の時代にあっては、もはや現実的ではなく、だれかがあらかじめ演奏すべき音を記した楽譜を使うことになる。本来アドリブで埋めるべき音を、あらかじめ楽譜に転写しておくことをリアライゼーションという。
シュピッタが所望したオルガンのパート譜には、ブラームスのリアライゼーションが施されていたということだ。シュピッタは同曲の演奏にあたりブラームスのリアライゼーションを採用したのだ。このときブラームスは41歳だが、バッハの校訂者、解釈者、演奏者としての位置づけが確立していた証拠だ。超一級のバッハ学者からリアライゼーションを所望されることの意味は大きくて深い。
ウィーン楽友協会に残されたブラームスの遺品には、「おお永遠の火、愛の源よ」BWV34のフルスコアがある。1875年1月10日の楽友協会コンサートのためにブラームスが準備したスコアだ。その最下段オルガンのパートのみブラームス自身の筆跡であることから、これがブラームスの手によるリアライゼーションだと考えられている。つまり、ブラームスはバッハのカンタータの演奏のたびに通奏低音としてのオルガンパートにリアライゼーションを施していた可能性が高い。
どこかにリアライゼーション・ブラームス版に準拠したCDはないものか。
本日バッハさんのお誕生日。
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