ピアニシモの魔術師
ブラームス歌曲の私的ベスト24 を好みの演奏で選ぶ過程を楽しんだ。フィッシャーディースカウとヘルマプライの2人だけでもほぼ作れてしまうのだが、女声が全く入らぬのもいかがなものかと思い詰めて、白井光子先生を選んだ。見ての通り日本人なのだがドイツで研鑽を積んだひとかどのメゾソプラノという評価だ。この度24曲のうち下記8曲をお任せするに至った。
- エーオルスのハープに寄せて op19-5
- 子守歌 op49-4
- 君の青い瞳 op59-2
- 野に一人いて op86-1
- 野を渡って op86-3
- サッフォーの頌歌 op94-4
- 死は爽やかな夜 op96-1
- 我が歌 op106-7
栄えあるオープニングを筆頭に目白押し。どれもフィッシャーディースカウやヘルマンプライが未録音の作品ではないけれど、繊細なピアニシモを駆使して堂々と渡り合う。ピアニシモの掌上でニュアンス1個の出し入れを自在に操るとでも申すべきか。我が家のCDで聴ける彼女の演奏は全部で23曲なので、8曲採用はかなりの歩留まりだ。女声はこの人一人で事足りる。ブラームスが歌曲に求めるクオリティに合致すると申し上げたい。そのクオリティは必ずしもソプラノのキャラとは一致しない。
とりわけだ。上記2の「子守歌」上記5の「野に一人いて」は絶妙だ。子守歌はこの人の演奏でなければベスト24には届かない。ろうそくの灯りの下でしっとりと聞かせる感じ。子供を寝かせる気のないかのようなソプラノの演奏が少なくない中、出色の出来映えだ。「野に一人いて」は所有22CDのうち最も遅い演奏。途切れぬレガート。テキストや和声にシンクロしてピアニシモ域内を維持したままニュアンス1個を自在に操る。
かくして、ブラームス歌曲私的ベスト24は、ディートリッヒ・フィッシャーディースカウ 、ヘルマンプライ 、白井光子の3名が8曲ずつ歌うという絶妙のバランスとなった。
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