プラシーボ
「プラシーボ」を敢えて訳せば「偽薬」とでも言うのだろう。小麦粉を風邪薬の袋に入れて飲ませたら頭痛が止まったという類の効果のことを「プラシーボ効果」というらしい。薬だと思い込んで飲むことで本来あるはずのない薬効が現われてしまうことだそうだ。「鰯の頭も信心から」に近い話である。
人間の感覚というのはデリケートである。最強の鎮痛剤であるモルヒネでも止まらない痛みがある一方で、約4割の痛みがプラシーボでも和らぐという。3連休明けの月曜の朝の腹痛はモルヒネでも止まるまいと思われる一方、小麦粉で頭痛が止まることさえあるのだ。ましてやその薬が、信頼する医者の処方したものだったら尚更だし、幼い頃母親が塗ってくれた赤チンも最強だった。ラグビーの試合中にお目にかかるヤカンの水も相当なものだろう。人間の思い込みとは恐るべしなのである。
風邪薬と思い込んで飲む小麦粉にそのような効果があるなら、誰某と思い込んで聴く、ノイズだらけのCDにも一部のマニアを熱狂させる効果があるに違いない。指揮者や器楽奏者の場合には強烈で華麗なプラシーボ効果が期待できる。何かと盛り上がる演奏家ネタは、演奏だけを聴いて演奏家を聞き分けられることが望ましかろうが、私は耳がよくないのでそこが思うに任せない。幸いなことにベートーヴェンとブラームスなど作曲家はほぼ聞き分けられる。
昨日の記事「歌は希望 」で述べた通り、声楽の場合、演奏家が男か女かは100%わかる。器楽ではそうもいかない。男女の見分けさえ付かないのにどうして演奏者を正確に当てることができようか。ピアニストでわかるのはグールドくらいだが、ハミングが決め手の時もあるから自慢にもならない。歌曲はこんな私でも高い確率で演奏家を当てることが出来る。フィッシャー・ディースカウ、ヘルマンプライに白井光子はわかるのだ。アメリングだってわかる。訓練を積めばわかる人はどんどん増えそうだ。
だから歌は希望。
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