お盆のファンタジー45
座はやがて即席演奏会になっていた
みなでシューベルト先生の作品を次々と歌う。「ます」「魔王」「菩提樹」「死と乙女」「子守歌」「アベマリア」「セレナーデ」など続く。ブラームス先生はどの曲もとっさに伴奏をつける。これにはシューベルト先生も驚いた。「まじ暗譜しとるんか」と。それには答えずに「次は?」と聞いてくるブラームスだ。
それではと私がブラームス先生の「五月の夜」を歌い始めたが、「その手のつまらん作品は暗譜していない」とブラームス先生。ブラームス先生が伴奏をしようとしないのにシューベルト先生は「あれ?」という表情だ。「そのテキスト、ヘルティ?」と真顔で質問する。「ばれたか」とブラームス先生。「さっきのドイチュ番号表の194番にあるじゃろ」と言う。シューベルト先生と同じテキストに作曲しちまったんだ。「ヘルティ先生のテキストはいいよね」と言うとシューベルト先生は「言える言える」と嬉しそうだ。「有節歌曲としての収まりっぷりだけなら最高だ」とはしゃぐ。
五月ならぬ七月の夜が深々と更けていった。
「さてお二人におみやげがあります」と私。出来立ての「ブラームス歌曲私的ベスト24 」のCDを渡した。これに喜んだのはシューベルト先生だ。「私がいくら貴殿の作品の話をしようと言っても全く取り合ってくれないんで」とブラームスを横目で見ながらチクリだ。「道中ずっと私の作品の話ばかりで王子の作品の話が出来なかったよ」どうやらシューベルト先生はブラームスの歌曲を聴きたいのだ。
「帰りの道中は是非お楽しみください」と私が言うと、ブラームス先生は「しょーがねーなー」という表情だ。
さっきかえって行った。
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