言及の範囲
フィッシャーディースカウ先生の大著「シューベルトの歌曲をたどって」を座右に旅を続けている。読み始めてまもなく、あることに気付かされた。シューベルトの生涯をリート作品で辿る旅と宣言している通り、その言及は厳しく歌曲に限られる。「ます」「死と乙女」「さすらい人」の話題になるとき、ごくごく控えめに室内楽やピアノ曲への言及がある他は、他のジャンルに対してストイックに沈黙する。
未完成交響曲だろうと、軍隊行進曲だろうと分け隔てなくスルーされる。ぼんやりと読み進めていると、シューベルトが歌曲だけを作っていたかの錯覚に陥る。
歌手であることの強烈な主張の裏返しだと拝察する。知らぬ者のいない大歌手でありながら、作曲家シューベルトや、テキストの供給者、あるいは伴奏者に対する謙虚な姿勢と相まって、その論旨に強烈な説得力を付加して止まない。
かっこいいと感じる。歳のせいだろうか。
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