収載の可否判断
ディートリヒ・フィッシャーディースカウ先生がグラムフォンに録音したシューベルト歌曲全集を、探索の音源にしていると書いた。その録音の準備を通じて堆積した情報が書籍「シューベルトの歌曲を辿って」に結実した事情も既に述べた。全集と銘打っていながら、実はシューベルトの歌曲全てを録音していない。フィッシャーディースカウ先生がテキストを検証し、未完のもの、明らかな習作、偽作、あるいは男声で歌われるべきではないと判断した作品が控除されている。明快な基準があったに決まっているが、出来上がった21枚組の収載リストだけを見ていても落選組の実態がわかりにくい。
そこで音楽之友社刊行の作曲家別名曲解説全集「シューベルト」巻末の作品リストを参考にしながら落選組の実態把握を試みることにした。独唱歌曲の総数は573曲ある。フィッシャーディースカウ先生はこのうちの406曲を全集に収載しておられる。167曲が落選しているということだ。探索の音源などとはしゃいではみたもののおよそ3割も抜けているということだ。
落選組をざっと眺めるのも興味深い。
とりわけ興味深いのは「男声に歌われるべきではない歌」という基準だ。タイトルだけから判断しても「女子の立場から歌う恋の歌」「母の立場の歌」などが抜けていると感じる。「糸を紡ぐグレートヒェン」D118の落選を見てもシューベルト歌曲としての知名度や重要度が物差しになっていない気がする。この167曲にもふさわしい音源が必要な気がしてきた。
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