始祖にして王
フィッシャーディースカウ先生は大著「シューベルトの歌曲をたどって」の冒頭で、シューベルトを「歌曲の始祖」と位置付けている。ここでいう「歌曲」とは「ドイツリート」のこと。ドイツ語のテキストで、ピアノ伴奏と独唱という形態の作品群を指すという定義も添えられている。狭い意味での「リート」は「有節歌曲」であったという歴史的経緯にも律儀に言及する。
「歌曲の王」という称号は、中学の音楽の時間に「魔王」を習う際引き合いに出される。何の疑いもなく飲み込んでいるが、何故なのかはあまり解説されない気がする。ましてや音楽史上の位置づけなんぞ顧みられることもない。「ドイツ語テキスト」「ピアノ伴奏」「独唱」という定義を満たす作品が、ベートーヴェンやモーツアルトにも存在することを認めながらなお、ディースカウ先生はシューベルトを「歌曲の始祖」と位置付ける。さらにはドイツリートというジャンルを確立し、その後ブラームスを含む何人かの作曲家がそれに続いたけれど、その中でも「王」だということも、議論の余地なしというニュアンスで断言する。
歌曲を通じてシューベルトの生涯をたどるという同書は、「始祖にして王」の理由を延々と詳述しているとも読める。
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