トカイ賛
名作ひしめくゲーテ&シューベルトの中でひときわ異色なのが「トカイ賛」D248だ。オリジナルは「Lob des Tokayers」というが少々の予備知識がいる。「Tokayer」(トカヤ)はハンガリーのワイン産地の名前。現地語では「Tokaji」と綴る、世界三大貴腐ワインの一角を形成する。もう2つはフランスのソウテルヌとドイツのラインガウかモーゼルだ。3か所のうちトカイだけがハプスブルク領内とあって、ハプスブルク王室に献上されてきた。秋になるとその年の出来映え監査する勅使が派遣されて、専用列車が仕立てられたという。
皇帝おひざ元のウイーンだからその威光は絶大だった。ブドウに付着するカビの力を借りて糖度を高めた独特の甘口で、細かなランク付けがされていて、ドイツ産の「トロッケンベーレンアウスレーゼ」クラスの上級品は高価だったからシューベルトが賞味したかどうかは怪しいけれど、ゲーテならあるいはという気もする。だからその味わいを詩に遺したのだろう。
さあ行くぞとばかりに張りのあるアウフタクトに始まる高鳴るような行進曲調。トカイワインのヴィンテージものを開けるさいの高鳴りと相通ずるものがある。
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