ノルマンの歌
一連の勅撰和歌集では見かけないものの万葉集ではメジャーなのが防人の歌だ。九州の国境警備のために東国から駆り出される兵士のこととひとまず定義しておく。彼らが残した歌が防人の歌だ。見送る家族の歌も含まれる。そりゃ新古今の洗練に比べるのは酷というもの。
シューベルトの「ノルマンの歌」D846がノリとしてこれに近い。
新妻を残して戦場に赴いた若いノルマン兵の独白だ。勇壮な決意、妻への思い、明日の不安、などが次々と吐露される。全体を貫いて打ち鳴らされるタッカタッカという進軍のリズムは、調とダイナミクスの出し入れで微妙にニュアンスを変える。後半しきりに現れる「Maria」という呼びかけは新妻へのよびかけとも聖母への呼びかけとも響く。
やがて長調に転じて望郷の思いとなって全体として骨太のストーリーが浮かび上がる。この系統の歌はブラームスにはない。なんだか心が震える。ピアノ五重奏のスケルツォの遠い遠い祖先かと。
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