帰心矢のごとし
「故郷に向かう軍隊と戦ってはならぬ」という。何故か。強いからだ。故郷はそれほど人を勇気づける。遠くにありて思う故郷に帰れるのだから、当たり前とも言える。ましてやそこに恋人が待っていたらなおさらである。
「Auf der Bruck」D853は、シュルツェのテキスト。3日間滞在したブルックというリゾートから恋人の居る故郷に戻る若者の心躍る描写だ。たった3日の不在からの帰還がこんなにも心ときめくのは、恋心の深さと表裏の関係にあるのだろう。微笑ましくも羨ましい。シューベルトは軽快な蹄の音でテキストの要請に答える。かくして「ノルマンの歌」とともに騎行系リートの双璧を形成する。遠く離れて故郷の恋人に思いをはせるだけの「ノルマンの歌」は短調なのに対し、こちらは恋人の許に戻る旅路とあってか長調だ。
ブラームスにはこの手の騎行系リートはない。
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