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2022年4月25日 (月)

Next one

クリエイティブな仕事をしている人たちが、「自作でもっとも気に入っているのは」と問われた時しばしば発する答えだ。

本当は「我が子同然の作品について序列化なんぞ出来ねぇよ」と言いたいところをグッとこらえてウイットを混ぜ込んだと解されよう。この受け答えを真に受けるのは野暮というものだ。次に発表された作品を「これが彼のベスト作品だ」と触れ回っては失笑の的になりかねない。次の作品が出た後、同じ事を彼に訊けばやはり「Next one」と言うに決まっている。

これには「私は進化し続ける」という意味や「次をお楽しみに」という意味を濃厚に含むのだ。愛好家としては気になるところだが、それを芸術家に言わせるのは無理と思った方が良い。

同じ事がブラームスでも起きている可能性がある。

同様の問いかけを受けたブラームスが「最後に聞いた作品さ」と答えたというエピソードを真に受ける中で起きた。「おおっ」とばかり色めきだったマニアは、その瞬間を起点に、ブラームスが最後に聴いた自作の記録を漁ることになる。仮にそれが「第4交響曲らしい」と解る。これで「ブラームスが自作で気に入っていたのが第4交響曲だ」という説が一人歩きを始めるという寸法だ。

待って欲しい。

  1. 仮にブラームスが心底「自作の最高は第4交響曲だ」と思っていたら「最後に聴いた作品さ」などと答えるだろうか。素直に「第4交響曲」と言えばいいのだ。インタビュウアーが自分の聴いた直近の演奏会の情報にたどりつく保証はないから誤解が発生する可能性がある。
  2. インタビューの直前に聴いた演奏会で第4交響曲が演奏されたことだけは仮に事実としよう。でも本当は次の演奏会の後に同じ答えをしないことを確認しなければいけない。ブラームスはいつもこの手の質問に「最後に聴いた作品さ」と答えていたかもしれない。
  3. 問題の演奏会で第4交響曲の後のアンコールでブラームス作品が演奏されてないことを確認せねばならない。
  4. さらにその演奏会の後、自室において一人でプライヴェートにピアノ小品を弾かなかったことを証明せねばならない。その他あらゆる機会にブラームス作品を聴いていない証拠とセットでなければならない。インタビューの時点で最後に聴いた曲は、一人で弾いたインテルメッツォかもしれないではないか。

上記諸点の裏付けとセットでなければ断言は難しいと感じる。

ブラームスは「Next one」と答える代わりに「最後に聴いた作品さ」と言ったと考える方がより自然だと思う。

 

 

 

 

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