保存と出版
CDを始めとする録音技術の無かった時代、楽譜だけが音楽作品保存の媒体だった。暗譜には限界がある。過去の大作曲家の作品は楽譜が遺されてこそ保存することが出来る。作曲され演奏もされながら楽譜が散逸したために聴くことが出来ない作品は膨大な数に達する。
当代一級の作曲家にして古楽譜のコレクターでもあったブラームスは、そのことが身に沁みていた。一度失われたが最後2度と復元出来ないのが音楽作品だ。古楽譜の収集と保存は、散逸に対抗する唯一の手段だ。
ところが、ブラームスは丹念な収集により保存された作品がただちに出版されるべきとは考えていなかった形跡がある。出せばいいというものではないとも考えていた。学術的に貴重な作品でも、印刷譜として刊行されるべきではないものもあるということだ。
図書館のようなしかるべき保存施設に収蔵されていれば、出版されなくてもいい作品もあったということなのだ。
これはまさに骨董的価値と芸術的価値の区別をしていたことに他ならない。
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