お盆のファンタジー47
昨夜遅くまで盛り上がっていたというのにフィッシャーディースカウ先生もブラームスさんも早起きだ。ずっと話し込んでいる。耳を澄ますとどうやら話題はずっとシューベルトだ。ブラームス先生にそう水を向けると、「そらそうじゃろ。こんな機会は滅多にない」「シューベルトでならずっと語っていられる」と目を細める。時折ピアノも歌も織り交ぜながら議論が尽きない感じ。申すまでもなく話題の中心には歌曲がある。次から次へと話題を変えて違う作品の話になるが、ブラームス先生はほぼ楽譜なんかなしで伴奏を付ける。どこで打ち合わせてきたのか、アーティキュレーションの細かなニュアンスまでピタリと寄り添っている。
ほれっと言いながら始まったのは「夜と夢」だ。「あんたの好きな曲だろ」とブラームスさんが弾きながらウインクを寄越すと、もうディースカウ先生はレガートをかぶせる。
調子に乗った私が、「王と王子の12番歌合せ 」の話をした。
- 糸を紡ぐグレートヒェン D118 ゲーテ
- 永遠の愛について op43-1 ヴェンツィヒ
- 月に寄す D193 ヘルティ
- 五月の夜 op43-2 ヘルティ
- 連祷 D343 ヤコビ
- サッフォーの頌歌 op94-1
- 幸福 D433 ヘルティ
- セレナーデ op106-1 クグラー
- 子守歌 D498 ?
- 子守歌 op49-4 子供の不思議な角笛
- ます D550 シューバルト
- 雨の歌 op59-4 グロート
- 水の上で歌う D774 シュトルベルク
- あの娘のもとへ op48-1 ボヘミア民謡
- 夕映えの中で D799 ラッペ
- エーオルスのハープに寄せて op19-5 メーリケ
- 夜と夢 D827 コリン
- 野に一人いて op86-2 アルメルス
- ノルマンの歌 D846 シュトルク
- 領主フォンファルケンシュタイン op43-4 ウーラント
- シルヴィアに D891 シェークスピア
- 調べのように op105-1 グロート
- 提菩樹 D911-5 ミューラー
- 日曜日 op47-3 ウーラント
「隣り合う2曲一組の歌合せですわ」と説明するとディースカウ先生の顔色が変わった。奇数がシューベルト先生、偶数がブラームス先生になっていますと付け加えた。「私個人としては5勝4敗3引き分けでシューベルト先生の勝ち 」でしたと水を向けるとブラームス先生は「わしならシューベルト先生の全勝じゃわ」と口をとがらせる。
ディースカウ先生は「4つの厳粛な歌が入っていないのは不公平ではないかね」といきなりの鋭い質問。「いやいやシューベルト先生側に4つの厳粛な歌に見合う作品がないので」と私が即答。歌合せのペアリングとはそういうものですと。ディースカウ先生は深々とうなずきながら「良い見識です」と同意してくれた。「全体によい趣味です」とほめてくれたばかりか、ブラームスさんに目配せをかますと「糸を紡ぐグレートヒェン」を歌い始めるではないか。ディースカウ先生てのグラムフォンの全集には入っいないのに、聞かせてくれた。「これは本来女性が歌わねばならんのじゃが」と言い訳も忘れないディースカウ先生だ。
あれよあれよという間に全部聞かせてくれた。ディースカウ先生も「おおむねそんなもんだ」と5勝4敗3分に同意してくれながらも4つの厳粛な歌がないことにはアスタリスクを頼むと念を押された。
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