涙こそ
涙こそゆくへも知らぬ三輪の崎佐野の渡りの雨の夕暮 SWV499
恋の部に収載される歌ではある。がしかしもはやそれは枝葉末節。師匠定家の詠歌「駒止めて袖打ち払ふ陰も無し佐野の渡りの雪の夕暮」が強烈にフラッシュバックする。その定家は万葉集・長忌寸奥麿「苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなくに」の本歌取りだ。定家が雪に変更しているのを実朝がまた雨に戻しているのが印象的。万葉、定家、実朝と連なる本歌取りの連鎖が芳しい。「三輪」が和歌山か奈良か諸説あるらしいけれど、そんなことは味わいには影響しない。少なくとも定家も実朝の2人はどちらにも行っていない。400年超の壮大な時間を一跨ぎのスケールを見れば見るほど、恋の部立てに無理やり押し込むこともあるまいにと思う。
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