岩くぐる
岩くぐる水にや秋のたつたがわ川風涼し夏の夕暮れ SWV147
念のために申すと「岩ぐぐる」ではない。結句が「秋の夕暮」ならば新古今時代の切り札だ。古来名歌が目白押しである。この歌、「秋」を夏に差し替えている。「たつた川」は現在の奈良県にある歌枕。紅葉の名所として名高い。だから「秋のたつた川」が自然にフィットする。しかも「秋が立つ」と地名の「たつた」が緩い掛詞の関係となれば、読み手側には秋が充満する。「川」の重複に臆する様子もなく、「川風涼し」とたたみかけておいて、結句で「まだ夏でした」とはぐらかす。意味的にも構造的にも複雑なのに、読んだ感じは悠然としている。
念のために申すと、実朝自身はたつた川を訪れたことはない。
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