山高み
山高み明けはなれ行く横雲の絶え間に見ゆる峰の白雪 SWV333
長いスラーがかかったような鷹揚な調子。そのスラーの先には師匠定家が居る。この歌に接した読者は、ただちに定家の「春の夜の夢の浮橋途絶えして峰に別るる横雲の空」を思い浮かべるに違いない。この定家の代表作の焦点「峰」「横雲」を切り取って季節を冬にすり替えた。本歌取りの定義を「元歌からの2句の借用」とするなら、これは本歌取りとは言えないけれど、このほのめかしが分からぬ読者層を相手にしてはいまい。さらには同時代の歌を元歌に取るなという師匠定家の注意に華麗なスルーをかまして臆する様子もない。師匠の恩に「仰げば尊とし」とばかりに歌を奉る三代将軍であった。
定家はこれを感じ取る。指導を守らぬ弟子を咎める様子もない。9番めの勅撰和歌集「新勅撰和歌集」の撰者となった定家はこの歌を採用して、実朝からのメッセージに受領印を付した。定家と実朝の子弟の絆を勅撰和歌集上に刻印したということだ。少なくともそう受け取る人たちが同和歌集の読者になっている。私もそうした読者群の端くれ末席に、かばん持ちとして連なりたいと心から思う。
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