摺衣
我が恋は初山藍の摺衣人こそ知らね乱れてぞ思ふ SWV374
染色は、かなり有力な歌の素材だ。どんな布にどんな染料を使うのかは、かなりの関心事ということもあって人々の生活に深く浸透していた。この歌は恋の部に入っている。摺衣は超大雑把に申せば草木染か。模様が乱れるということから恋による心の乱れを暗示する。小倉百人一首の「みちのくの忍ぶもぢずり誰ゆえに乱れ初めにし我ならなくに」がすぐに思い出される。さらには染料の「初山藍」の「初」によって「初恋」が仄めかされる。現代の意味「人生初の恋」のことではなくて「恋の最初の頃」の意味だ。古典和歌における「恋」はいつも決まった進行をする。現代の感覚ではなじみにくい。なかなかこれといった恋の歌には巡り合わないけれど染物系の語彙のために耳に深く落ちる。聴く側の私の耳の都合だ。
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