山風の
山風の桜吹きまく音すなり吉野の滝の岩もとどろに SWV071
詞書には「屏風の絵に」とある。実朝本人は静岡県の三島以西には行ったことがないから、吉野の実景を知らない。絵にかいた景色を見て読む歌「屏風歌」というジャンルの作品だ。屏風絵に音や香りあるいは風は描けないから絵で補うという趣向だ。「とどろに」は大好きな言葉。SWV641の絶唱「大海の磯もとどろに寄する波割れて砕けて裂けて散るかも」の2句目の登場が名高いけれど、結句に据えるこちらもかなりな説得力。古来名高い「吉野の桜」をわき役に押しやる迫力だ。古典和歌の伝統にしっかとよりそってなお、個性がほとばしる。
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