われさへあやな
きりぎりす鳴く夕暮れの秋風にわれさへあやなものぞ悲しき SWV198
初句に「きりぎりす」がおかれるだけではっとする九条良経補正がかかっている。小倉百人一首「きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣片敷き独りかも寝む」が思い起こされるというだけなのだが、読みすすめると第四句が焦点とわかる。「あやな」については既に言及 してある。夕暮れ時にきりぎりすが鳴いているだけで訳もなく悲しいという。結句に「秋の夕暮」がおかれる王道からわずかにポイントをずらす巧妙な詠みぶりだ。「秋風」「夕暮」「きりぎりす」を取り揃え、語順調整だけで同じ風情をひねり出す手練れの技である。その扇の要に「われさへあやな」がおかれているということだ。
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