格子な上げそ
朝浄め格子な上げそ行く春をわが閨のうちにしばしとどめよ SWV667
受験生の間では割と必須。「な~そ」は禁止をあらわす構文として菅原道真公のお歌「春な忘れそ」が名高い。実朝にも実例があった。第二句「格子な上げそ」は、「格子を上げてはなりませぬ」ということだ。初句「朝浄め」は「朝のお掃除」の意味で、時にそれを行う人を指す。自分の寝室をお掃除する人に、「格子を上げてはなりませぬ」と命じておいて、第三句以下にその理由を述べる。去り行く春を少しでも長く寝室に引き留めておきたいという心境を詠んだ。第四句の字余りが時間を堰き止めたい気持ちを反映しているかもしれぬ。淀みなくさらさら流れては具合が悪かろう。行く春を惜しむ古典和歌の定型と言ってしまえばその通りだが、読み終えてなんだかほっとする。格子を上げないくらいで行く春を引き留められるはずもないからこそ、チャーミングな誇張として成立する。
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