鮎こそは全て
食みのぼる鮎すむ川の瀬を早み早くや君に恋わたりなむ SWV682
「あの娘に早く会いたいな」くらいの意味。第三句までは「早く」を導き出すための序詞だと察しがつく。「食みのぼる」は「はみのぼる」と読む。「鮎が餌をついばみながら遡上する浅瀬の流れが早いからという訳ではないが…」くらいの現代語訳で大滑りはせぬが、こうした小道具の配置が織りなす空気も味わっておきたい。好きな子に会う前の心ときめく様子。はやる心の反映でなくてなんとする。「早く早く」と重ねる意図はそれに決まっている。「恋渡る」は瀬を渡るに通じてはいまいか。何よりも鮎は、お目当ての相手の描写なのではないか。平たく申せば「若くてピチピチな彼女」なのではあるまいかとお叱り覚悟の妄想にまで踏み込みたい。22歳の若者のモノローグなら全く不思議でもなかろう。
その分、和歌の伝統からははずれる。異本にひっそりくらいでちょうどいい。
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