霰の系譜
もののふの矢並みつくろふ籠手の上に霰手走る那須の篠原 SWV677
定家所伝本に収載されていない。これを現代に伝えた柳営亜槐本でかした。射出前に矢の並びを整えている武者の左腕には、弦の跳ね返りから腕を守る「籠手」(こて)という防具がついている。その上に霰が音を立ててあたっていると詠む。「手走る」は「たばしる」と訓ずる。霰の勢いを一言で切り取る。場所は那須野。小さな竹が多く自生するという狩の現場である。「矢並みつくろふ」とは独特の言い回し。武士ならではの小道具「籠手」に霰が「手走る」という絶妙の取り合わせに舌を巻く。「籠手の上に」が字余りで1拍休符が入る感じも気に入っている。
先輩歌人の霰の歌と比べてみる。
- 月冴ゆる氷の上に霰降り心砕くる玉川の里 俊成
- 冴ゆる夜の真木の板屋の独り寝に心砕けと霰降るなり 良経
藤原俊成と九条良経の霰の競演が千載和歌集に並んで収載されている。冷え込む冬の夜の描写で、厳しさが漂う。特に良経のこの歌は大好きで、実朝作に脳内で拮抗している。しかし、小道具の選択と配置で実朝にためらわずに軍配を上げる私が居る。
年も押し詰まってこの歌か。
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