濃むらさき
結ひ初めて慣れしたぶさの濃むらさき思はず今も浅かりきとは SWV632
古典和歌における恋歌の定型としては異例の歌。だから雑歌の部に入れられているのかもしれない。実態はどうあれ歌の世界では待つのは大抵女性側だけれど、ここでは男の側が女に去られて茫然としている。実話に近いのではあるまいか。「たぶさ」は「髻」という字で、「もとどり」とも読む。頭の頂に髪を束ねる髪型のことだ。束ねる紐を元結と言って、ここではそれが濃むらさきだと言っている。結婚の準備が整った験ともされている。「お付き合いが始まってからずっと慣れてきたあなたの濃むらさきを思い出すと、今もって情愛が浅かったとは思えないのだけれど」というくらいの意味。いろいろ深い事情もありそうだが、歌に仕立てるとサラリとしている。「結ひ初め」「たぶさ」「濃むらさき」がちりばめられているせいで、ドロドロなものをマスキングしているとでも申し上げるべきか。
そりゃ、勅撰和歌集には既読スルーをかまされるが、私はこれがいい。
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