山鳩
飛びかかる八幡の山の山鳩の鳴くなる声は宮もとどろに SWV748
「八幡山」は鎌倉鶴ケ丘八幡宮の裏山だ。山鳩の泣き声がその鶴ケ丘八幡宮の社殿にとどろいていると詠む。鳩の声が社殿をとどろかすほどかということで、読み手にはそれが誇張だとわかることもあって、上級の比喩になる。実朝による「とどろに」の用例はこのほかに2首。
SWV071 山風の桜吹きまく音すなり吉野の滝の岩もとどろに 「滝の音」
SWV641 大海の磯もとどろに寄する波割れて砕けて裂けて散るかも 「波の音」
どちらも水のほとばしりの形容である。鳩の声がこれらに比肩するということはかなりなインパクトだ。初句で「飛びかかる」と振りかぶるのもうなずける。第二句以降「や」音の連投で生まれる心地よくせり上がるリズムは、あるいは鳴き声の反映かもしれぬ。それが結句で「とどろに」と結実したと見たい。
何はともあれ、鳩の声は吉事である。結果として鶴ケ丘八幡宮、ひいては鎌倉、源氏の反映を祈念していると解したい。
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