矢立ての杉
東路の関守る神の手向けとて杉に矢立つる足柄の山 SWV720
お正月に破魔矢つきものとばかりに昨日は「矢筋」で本日は「矢立」である。そういえば「矢並」もあった。実朝は「矢」にまつわるこうした言い回しの数々を実に効果的に配置する。足柄は古代東海道の関所があった。通行の安全や武運を祈る武士たちは関所を通過する時に杉に矢を立てた。各地に「矢立ての杉」が残るし、全国各地に関所はある。逢坂の関、勿来の関、白河の関など、歌枕にもなっているが、足柄を選ぶのが実朝だ。足柄は実朝もよく知っている上に、初句に東路と振りかぶるためには足柄でなければならぬ。関所のある足柄峠は足柄坂とも言われ、相模と駿河の国境であった。ここより東が坂東と呼ばれていた。だから初句「東路の」が生き生きとこだまする。鎌倉に居住する坂東武者の棟梁に相応しい格調だ。
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